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【キャンプのすすめⅠ】

 今の子どもたちは、色々な力が一昔前よりも劣っている気がする。台拭きをさせても草取りをさせても、箒を持たせても本当に未熟だ。たぶん家庭でそういう生活に密着した作業は、すべて周りの大人がやっているのだろう。

 キャンプでは今の子どもたちが苦手な様々な力をわりと簡単に身につけさせることが可能だ。第一に楽しいから頼まれてするお手伝いと違って生き生きと動く。

 また、失敗してもまたやり直せばいいという余裕や安心感から次への工夫が生まれる。テント立てがうまくできなくても、何とかして居心地のいいねぐらを造ろうとする気持ちは絶えやしない。

 ~までに…しなければならないといった束縛もなく、「いつのまにか主体的で前向きな行動をしている自分」に気付かせることができる。

 教育を「経験主義」の考えで語るとき、「キャンプ=教育」になる。もちろん日常の生活よりは危険を伴うが、危険と隣り合わせの遊びほど楽しいものはないし、冒険意識がより子どもたちをパワーアップさせる。

 タープの下の食卓の向きから、水タンクの位置に至るまで、どんなレイアウト…。次の行動のすべてを自分の意のままにする。

自然相手だから思わぬハプニングもある。しかし、その時どう回避するか…。そんな何とも言えないスリルもまた楽しい。

【キャンプのすすめⅡ】

 昔に比べると今の子どもたちの周りには便利品がたくさんあり、物がなくて不自由することは全くなくなった。お金さえあれば何でも手に入るから、我慢する能力も低くなった。

 山へキャンプに行くと、ある程度の準備をして行っても必ずと言っていいほど、予定外のことが起こるから、その時どうするかの適応能力や自分自身のアレンジ性能が役に立つ。

 経験からの知恵や工夫は、買えば済むことを我慢し、あるもので済ませることに普通に役立つ。

 例えば、キャンプで必要なタープを張っても、想定外の強風や、突然の通り雨で、タープが倒れそうになることがある。そんな時、何とかして風雨に耐えられるようロープを使って補強する。

 タープに穴を開けないで通し穴のない部分からタープの一部をロープで引っ張るには、小さな石ころやペットボトルのキャップが役に立つ。これこそ自分のアレンジ力を全開にする場面だ。

 その時のロープワークは日常生活でも便利に使える技だ。

 キャンプは楽しみながら、子供たちの色々な能力を引き出すことも、新しい生きる力を身につけさせることもできる。

 二泊か三泊すると、自分の一生懸命さに気づいて、疲れと共に何とも言えない充実感がわいてくる。

危険から自分を守る力、思考力、体力・知力、想像力と創造力…。様々な生きる力に直結するキャンプ。第一楽しいからやめられない。

 

【キャンプのすすめⅢ】

 森の中でのキャンプは、心身をリラックスさせてくれるだけではない。人が生きていくための基本を体験できる。

 例えば、最近食育ということがいわれる。まさにアウトドアキッチンは食育の最前線だ。何と言っても、減ったおなかをどう満たすかは、生きていく最大の問題だ。食堂もなく出前ができるわけもない。自分たちの食事を自分たちで考えなければどうにもならない。

 その必然から生まれた作業は全く苦にならない、前向きな行動になる。

 また、その場には親子のコミュニケーションが無数に生まれる。刃物の使い方や調理の仕方、食材の扱いなどの親が普段伝えたくてもできない様々なことを体験的に教えることができる。

 子どもには確実に積極性や行動力、思考力や自尊心が身につく。楽しく過ごしているうちに生きる力が育まれている。

 失敗が許される。自分から積極的に動いてうまくいかなかったことは、次回へのやる気につながる。

 失敗しても他人に迷惑をかけることにはならない。少々テーブルや椅子が汚れても全く気にならない。

 こう切るとこんな食感に、これを入れるとこんな味になる。美味しくするには・・・。

どんどん創造力が身につく。給食や家庭の食卓とは違い、食べることそのものにやりがいを感じさせることができる。

 

  タープの下にいると不思議とどこか遠くの国にでも来ているかのような錯覚をする。木々の枝葉が風に揺れる音で季節を感じる。キャンプ歴を重ねると、バーベキューはあまりしなくなる。炭火の使用は、ダッチオーブンでローストチキンを作るときか燻製を作る時、または秋の夜の暖をとる時だ。

 実に食べ物が美味い。やはり人間は自然の中で生かされている…と実感。飲み物は、山から湧き出る水か、それで煮出したお茶。まあ、大人は多少のアルコール!? 日ごろ家ではしないような手間のかかることも苦にならない。α波がたくさん出て全身がリラックス状態になり、自然に動きたくなるのだろう。森から注がれるフィトンチッドも何よりの元気とやる気の応援隊だ。現実の仕事のことや悩みを忘れさせてくれる素晴らしい時間。

 

 「卒業」とは、言ってみれば時間が来ただけの話。みんなこれからそれぞれの人生をそれぞれの歩み方で生きることになる。

 リラックスタイムをつくろう。人間は自然の中に生かされている。無茶のない自然に近い生き方をしよう。人生の主役は自分。大事に、大事に生きてほしい。(2011.3.「卒業生へ」より)

 

 

 

 

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